名古屋高等裁判所金沢支部 昭和51年(う)175号 判決 1977年3月29日
本籍
富山県高岡市下山田一、六三七番地
住居
同 射水郡大門町二口三、〇二一番地
会社役員
浅野憐賢
大正四年一〇月八日生
右の者に対する所得税法違反被告事件について、昭和五一年一一月一〇日富山地方裁判所が言い渡した有罪判決に対し、被告人から適法な控訴の申立があつたので、当裁判所は、検察官安村弘出席のうえ審理をして、次のとおり判決する。
主文
本件控訴を棄却する。
理由
本件控訴の趣意は、弁護人島崎良夫名義の控訴趣意書及び被告人名義の「上申書」と題する書面に各記載のとおりであるから、ここにこれらを引用するが、その要旨は、原判決の量刑が重きに過ぎて不当である、というのである。
所論にかんがみ、記録を調査し、当審における事実取調べの結果を参酌して検討するに、本件は、肩書住居地において浅野満俺釉薬製造所の商号を用い、瓦用釉薬の製造・販売の事業を営んでいた被告人が、原判決の三事業年度にわたり所得金額合計二億五、四八八万四、三八四円、その税額合計一億五、三六七万三、六〇〇円であるのにもかかわらず、二重帳簿を作成し、公表帳簿において製品の売上の一部を除外し、あるいは、架空仕入の計上を行うなど不正経理をなし、これにより除外された資金を仮名預金として保留する等所得の一部を秘匿して総額一億五、〇六四万二、二〇〇円に及ぶ多額の所得税を逋脱した事犯であつて、その犯行の動機、手口、脱税率等諸般の情状を総合考察すると、原判決の量刑(懲役一年四月及び罰金三、〇〇〇万円、但し、懲役刑につき三年間執行猶予)は相当として是認すべきであり、所論のうち、肯認しうる被告人に有利な諸事情を勘酌考量しても、右量刑が、所論のごとく重きに過ぎるものとは認められない。論旨は理由がない。
よつて、本件控訴は、その理由がないから刑事訴訟法三九六条に則り、これを棄却することとする。
以上の理由により、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 中原守 裁判官 横山義夫 裁判官 宮平隆介)
○昭和五一年(う)第一七五号
控訴趣意書
所得税法違反 浅野憐賢
右の者に対する頭書被告事件につき富山地方裁判所が言渡した判決に対し、被告人より控訴を申立てた理由は次のとおりである。
昭和五二年一月二二日
右弁護人 島崎良夫
名古屋高等裁判所
金沢支部第二部 御中
記
原審は被告人に対し懲役一年四月(執行猶予付)及罰金三千万円の判決を言渡したが、その罰金刑の量刑著しく重く苛酷に失するので、左の情状に鑑み原判決を破棄の上、更に減刑した軽い罰金刑に処せられ度い。
一、犯罪事実を全面的に認めて居て、改竣の情極めて顕著である。
二、体刑の前歴なく、真面目に生業に従事し、地方産業の発展に貢献して来て居る。
三、本件捜査、裁判及び体刑の処罰により充分社会的制裁を受けていて、尚多額の罰金にて処断する必要は存しない。
四、本件脱税の動機は、不況時に備え、従業員の生活と自己の事業の発展を守るため、利益を備蓄しようとの意図に出たものであり、自己に於て遊興飲食等豪盛なぜいたくな生活をしようという目的ではなかつた。
五、被告人は極度に経費を切りつめ、克苦勉励、勤倹節約して生業に従事した結果、所得が異常に増大していて脱税所得は私生活面に全く使用されて居ない。
六、本件発覚後、堀税理士の適正な指導及び炭谷外次郎の監督の下に、正しい税申告を行つていて再犯の虞れはない。
七、脱税方法も幼稚にして更に帳簿類の証拠も容易に発見され易くなつていて、悪質なものではない。
八、本件当時中小企業者は税負担を重圧と感じ、脱税を普通とする社会世相であつた。
九、被告人ら中小企業に対する政府の保護育成は社会政策上不備であり、本件誘発の原因を構成している。
一〇、被告人は多額の未払税額を誠意を以つて弁済に当り、残額については尚、毎月二〇〇万円宛金沢国税局に誠実に履行している。
一一、現在の被告人の資力にては、更に金四千万円の多額の罰金額を納付することは困難且苦痛である。
一二、被告人をして事業に努力せしめるに障碍とならぬ程度の軽い罰金刑に処し、被告人を再建せしめることが社会政策上必要である。
以上